今泉 この映画は携帯ゲームが原作ではあるんですが、ただのファン向けならば映画にする意味はないんです。やはり映画にはテーマ、メッセージが必要だし、そういうものを僕も見たかった。そこで河森総監督に「監督の魂の作品にしてください!」とお願いしたことがそもそもの始まりでした。
河森 僕としては、原作ものを避けていたわけではないんです。ただ「メディアが変わるならこのほうがもっと面白くなるのでは」と思ってやっていると「こんなに変わってしまうとは思わなかった」といわれて流れてしまうことが多くて(苦笑)。だから今回、そういうこれまでの経緯を説明したのですが、その上で「『誰ガ為のアルケミスト』を映画として筋の通ったものにしてほしい」という依頼をいただけたので、それはとてもうれしかったですね。
今泉 最初はゲームの第1章を映画にできないかを検討しましたよね。
河森 しましたね。その後、第2章ではどうだろうと検討していた時期も長かったです。
今泉 そうやって話していくうちに、「映画としてまとめようとするとキャラクターも変えたくなってしまう」という話が出てきて。ならばいっそ、「ゲームの物語が終わった後の物語」という設定はどうだろうとなったんです。それならば僕がゲームのほうで最終的に辻褄を合わせればいいわけですし(笑)。カスミはどうして登場することになったんでしたっけ?
河森 僕がその前に準備していた企画が、女子高生が異世界にいく話だったんです。それがなかなかGOがでなくて。でもその異世界がバベル大陸という確固たる世界観を持った場所であればうまくいくだろう、となったんです。そうすれば現代人のメンタリティとバベル大陸の人々のメンタリティとの違いも描くことができる。
今泉 “異世界転生もの”のひとつに見られたらどうしようという不安はあったんですが、作品世界の知識を持たない人に楽しんでもらうためにも、カスミはいたほうがよいかなと思いました。ただ無敵じゃないんですよね、カスミは(笑)。基本的になにもできないキャラクターなので。そういう意味では、懐かしい感じで、今見ると新鮮なキャラクターになりましたね。
河森 カスミをどう見せるかは、ちょっとチャレンジでしたね。カスミは“暗い子”というわけではなく、子供のころは活発だったけど、あることがきっかけで気持ちを行動に出せなくなってしまった子なんです。だから、ひとりになった時には、好奇心がふと顔を出したりする。そのあたりを、水瀬いのりさんの演技がうまく引き立ててくれました。あと難しかったのは幻影兵(ファントム)の扱いですね。幻影兵という、この作品ならではの設定をどう見せればいいのか。最終的に最強の幻影兵を召喚しようとしてカスミがやってきてしまったことにすれば、カスミの説明もできるし、幻影兵がどんな存在かも描ける、という落とし所を見つけることができました。
今泉 幻影兵をアニメで描くにあたっては、ひとつひとつ確認をしていきましたよね。「ご飯は食べるのか」「召喚の手段は」「召喚後は消えるのか」……。ゲームでは描いていなくて、アニメになると気になるところがいっぱいあって。結果として幻影兵にも「死してなお平和のために戦う、とはどういうことか」という哲学的なドラマが盛り込まれることになりました。
河森 エドガーは、喪失感とそこから立ち上がる姿を描くにふさわしいキャラクターだと思いました。またバイクに乗っているのも、映画の中の運動量が増えて、魅力が増すなと思いました。
今泉 エドガーって“昭和の男”なんです。ひょうひょうとしていて、ちょっと古風で、でもかっこいい。だから喪失感と聞いて、どうなるんだろうと思ったんですが、映画冒頭の展開で「ここまでの体験をしたらエドガーも変わるよな……」と思いました(笑)。しかも、そんな昭和の男エドガーに対して、カスミが平成生まれの女の子というのもいい対比になりました。エドガーが「女に涙は流させない」というとカスミが「守ってもらおうと思わない」って返すところなんかは、すごく今風の関係性になっていますよね。
河森 エドガーとカスミの関係は大枠は決まっていたのですが、なにかもう一押しほしくて、一度シナリオが出来上がった後に、そのシーンとセリフを足したんです。
今泉 そもそもリズベットが飛んでいるのは、ゲームのオープニングムービーで河森監督が飛ばしたからなんです(笑)。それがまわりまわって映画でも飛ぶことになった。
河森 飛んでいるキャラクターが飛べない状態にある、ということを描くことで、世界が危機的状態にあるということがわかりやすく描ける、と考えました。あとリズは明るい性格ですから、かなり追い込まれてもムードメーカーとして働いてくれるだろうということもあって、カスミと親しくなっていく役回りを担ってもらいました。
今泉 河森総監督はロケハンに行くとずっと写真を撮っていますし、いろんな本を読んでいて知識も豊富です。勉強家なんですね。それが作品に生きているから、「異世界に行った主人公がその世界のものを食べる意味」といったことをさらりと作品に盛り込むこともできる。こんな大先輩がいる以上、自分も頑張って仕事をしていかないといけないなと思いましたね。
河森 今回、今泉さんとやりとりをしながら映画を作ったわけですけれど、自分自身、ここまで原作サイドと綿密なやりとりをしたことはなかったなと感じて、これまでの自分をちょっと反省しました。何度も何度もキャッチボールしながらお互いを理解していくという過程は、ちょうどこの映画の内容ともリンクしていて、自分としては映画のカスミになったような気分でした(笑)。
今泉 (笑)。しかも出来上がった作品は、これまでの河森作品にも通じる部分が色々と入っているんですよ。それもうれしかったです。河森総監督は今年デビュー40周年だそうですが、河森監督初の原作ものということもあって、河森総監督の作品の中でも、唯一無二な作品になっているんじゃないかなと思います。